伝泊+まーぐん広場・赤木名

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背景

現代の日本は少子高齢化、地域間格差の拡大、労働力不足、空き家の増加、増えるインバウンドに対する受け皿不足など、数多くの課題を抱えています。

それに対し、国土交通省、厚生労働省、総務省などが様々な政策や施策を打ち出してきました。

アトリエ・天工人ではこれら社会の課題に建築で応えるべく、古民家を活用するプロジェクト(天工人ストーリー004「伝泊」, 005「エチオピア・ミレニアム・パビリオン」)、高齢者施設の勉強会、リゾート施設の研究などを実践してきました。

また、代表の山下保博は九州大学非常勤講師・客員教授在任中に高齢者・障がい者・観光客による街の活性化をテーマとする授業を5年にわたり行っています。

こうした取り組みの結果、2018年7月に「伝泊+まーぐん広場・赤木名」をオープンするに至りました。

これら全てのきっかけとなったのは、ドイツのとある街との出会いでした。

 

 

 

あたりまえな街との衝撃の出会い

2009年、ドイツ中西部に位置するベーテルに行ったことが全てのスタートでした。ベーテルは人口が約2万人に対し、てんかん患者と障がい者人口が約4割。そして、健常者も非健常者も分け隔てなく生活している街です。

東京でベーテル施設長ウルリッヒ・ポール牧師にお会いした時、彼は山下の”理想とする建築やまちづくり”の話に対して、こう言われました。「山下さん、あなたは完全な人間だと思いますか? あなたと障がい者の違いは何ですか? あなたが理想とする街は私たちの場所かもしれない。是非ベーテルにお越しください。」

その半年後に現地を訪れ、2日間の滞在で様々な施設を見学し、当たり前のように普通にどこでも障がい者や高齢者が働いている、特別ではない姿に感銘をうけました。

山下の“理想”がそこにあったのです。

 

 

勉強会と街づくり研究

2014年にアトリエ・天工人で高齢者施設の勉強会チームを結成しました。まず日本社会事業大学専門職大学院教授の井上由起子さんに話を伺い、世界と日本の施設の現状や違いを学び、見るべき施設の見学を積極的に行いました。

3年間で約22拠点の施設を訪問した中で、特に参考になったのは、石川県白山市で社会福祉法人「佛子園」が運営する地域コミュニティ施設「B’s」と「シェア金沢」、そして鹿児島の「しょうぶ学園」でした。

「B’s」は徒歩圏内の周辺地域を対象にしたタウン型の生涯活躍のまちを目指したもので、福祉・医療施設としての高齢者デイサービス、障がい者生活介護や保育園、内科クリニックに加え、交流施設として天然温泉、食事処、ウェルネス(健康増進施設)、温水プール、フラワーショップなどが併設され、様々な人びとが「ごちゃまぜ」に集まり、交流できる場所となっています。施設全体が障がい者の就労支援の場となっているのが特徴です。

「しょうぶ学園」はライフサポートセンター、デイケアセンター、ワークサポートセンター、ホームヘルプセンター、グループホームが混在する鹿児島市の障碍者福祉施設で、アートを取り入れていることが大きな特徴です。木工工房・陶芸工房・染色縫製工房・レストラン・蕎麦屋が併設され、障がい者の人たちが働き暮らしています。彼らが作り出す作品は世界的に有名で、美術館にも収蔵されているほどです。

山下はこのような視察で学んだことを活かし、九州大学の授業で大学院生達とともに街づくりのスタディを積み重ねていきました。

 

 

高齢者施設の設計

2016年、鹿児島・指宿で有料老人ホームとデイサービス「いろ葉」の中迎聡子さんと出会いました。聡子さんの運営方針は、施設中心ではない、”人”が中心となれるような介護の実践です。例えば、1日30数回徘徊する方がいても、鍵をかけることなく、一緒にスタッフが外に出かけるような施設です。

聡子さんと山下は意気投合し、彼女の故郷の鹿児島県川辺市に小規模多機能「ひらやまのお家」を一緒に設計しました。

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