こんなところに泊まれるなんて 平戸城「城泊」・ 飫肥「城下町」プロジェクト

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こんなところに泊まれるなんて

平戸城「城泊」・ 飫肥「城下町」プロジェクト

物語

古民家にとどまらず、武家屋敷、城郭、町屋などの歴史文化的価値のある施設を利活用しようという動きは、様々な地域で始まっています。

その中でも、長崎県平戸市は江戸時代から海外との門戸として栄え、それにより工芸・食・美術などの文化が華開いた由緒ある場所です。山下はこの平戸市に世界中から観光客を受け入れるべく、湾を見下ろせる「平戸城」の一つの懐柔櫓(かいじゅうやぐら)の改修を行い、高級な宿泊施設に生まれ変わらせるためのプロデュースと設計・監理を行いました。そこでは、山下にとっても新しい取り組みであるアーティストとのコラボレーションを行ったことで、魅力的な空間を創出しました。

「平戸城」の城郭に泊まることのできる日本初の宿「城泊 / Castle Stay 」が、2021年4月にオープンしました。

背景・課題

日本は観光立国を旗印に文化施設や歴史的建造物を観光に活用し、各地域の活性化と経済的な恩恵を獲得するSDGs的な大きな潮流の中にある。

アトリエ天工人の取組

2019年長崎県平戸市の「平戸城」を観光に活用するためのコンペで山下の企画案が選ばれ、3社のチームのプロデュース・建築設計の立場で改修工事を実施した。

効果・成果

平戸の歴史や背景に触れ、「琳派」をコンセプトにし、山下の得意とする「地域素材の活用」も随所に散りばめ、新たな価値創造を実現。

次なる展開

宮崎県日南市の飫肥の城下町のプロポーザルを3社で勝ち抜き、歴史的建造物を利活用した改修を行い、集会場や飲食、宿泊施設の計画を進めている。

今後の展望

日南市や九州での取り組みを契機に、縁の深い九州・平戸から奄美、沖縄、そして台湾までの連携を含めるような取り組みを行っていきたい。


背景・課題

日本は観光立国を旗印に文化施設や歴史的建造物を観光に活用し、各地域の活性化と経済的な恩恵を獲得するSDGs的な大きな潮流の中にあります。

これまで保護保全を第一義としてきた「お城」もご多分に洩れず、歴史的建造物を活用した体験の提供を行う場所として、利活用が望まれています。

長崎県平戸市でも、日本百名城の一つとして名を馳せる平戸城を観光に活用する試みを始めました。2019年平戸市により、宿泊施設化の改修・運営事業者が公募され、Kessha株式会社、日本航空株式会社(JAL)およびアトリエ・天工人の3社JVが選定され、日本初の「城泊」の実現に向けて取り組むことになりました。平戸城は、1962年(昭和37年)に再建された鉄筋コンクリート造の建物であったため、常設の宿泊所として生まれ変わらせることができたのです。

配置図

山下の取組

平戸は江戸時代において海外との門戸でした。当時の日本を代表する輸出物には、陶器・銀・茶、そして「琳派」の美術が含まれており、平戸は西洋との文化の交流地として栄えました。日本を代表する美術様式「琳派」は、当時から西洋のアーティストにも多大な影響を与え、現在も世界各国の高い感度を持つ人々が求める価値観・美意識と合致し、高付加価値を生み出しています。

山下は平戸に関するリサーチを進める中でこの歴史や背景に触れ、「琳派」をコンセプトにすることを選択しました。山下の得意とする「地域素材の活用」も随所に散りばめ、この歴史的建造物が、過去から未来へ、新たな文化をつないでゆく象徴になることを目指しました。

一階平面図
二階平面図

効果・成果

平戸城の外観は、燻瓦と純白の漆喰、深い色合いの板塀から構成されていたため、お色直しをする程度にとどめました。

内部は、当時倉庫として放置されていたため、構造から見直し、プランを大きく変えました。エントランスの重層的な格子、金箔をイメージした壁や天井の仕上げ、鋳物の階段手摺、扉や家具の希少な金色の突板、さらに、九州を代表する若手アーティスト小松孝英氏の絵画が、メインの壁面をはじめ随所に施されています。

唯一増築された浴室は長崎県産材の小長谷石によって包まれ、平戸瀬戸(平戸湾)の美しい景色と一体化し、まるで空の上でお風呂に浸かっているような感覚を得られます。

山下は、空間の構成から細部に至るまで、選び抜かれた地域の素材によって彩り、新たな価値創造を実現しています。平戸の歴史を深く認識し、平戸の豊かな自然と交感し、新たな美意識に支えられた息吹を体感する空間となりました。

次なる展開

飫肥 城下町の「時間」に泊まる

同じく九州で、歴史的建造物を利活用する試みが始まっています。

宮崎県日南市の飫肥は、江戸時代から明治初期までの280年もの間、飫肥藩として栄えた5万1千石の城下町です。

武家屋敷を象徴する門構え、風情ある石垣や生垣などの街並みが昔の姿のまま残されているほか、伝統芸能や伝統食など数多くの芸能文化が現代に伝えられ、九州の小京都と称されています。

山下は、築100年を超える建築物によって構成されている街並みや景観を守り、先人たちの思いを後世に引き継ぐため、日南市の「創客創人」というヴィジョンを掲げ、伝統的建築物の利活用に取り組むことになりました。

地元メンバーと連携したチーム

このプロジェクトは、3つの組織がチームを組み、日南市にプロポーザルを行なって、2020年の春に獲得したものです。

そのチーム内の役割は、運営を行う「狼煙」、送客と広報を行う「JAL」、山下が率いるプロデュースとデザインを行う「奄美設計集団」です。
そこに、地元行政や伝統的建築物の保存を担当する教育委員会、現地設計者、アーティスト、地域おこし協力隊、飲食関係者などが参加する大掛かりなプロジェクトとなりました。

4つの伝統的な建物を、宿泊施設3棟とみんなが集まれる集会や飲食の場所1棟に改修することになりました。

コンセプト

「飫肥の価値を未来へむすぶ」ことをコンセプトに、歴史・食・アートを三本柱とした利活用案を提示しました。

伝統的な建築物の景観と食の魅力を未来へ引き継ぐだけでなく、現代アート作家による武家文化の美意識の再解釈を行い、伝統と革新を掛け合わせた「新しい飫肥」の提供を目指しました。

以前から日南市を中心に推進していた武家屋敷プロジェクトでは、城下町である飫肥を中核として、港町の油津エリア・南郷エリア、山林資源が豊富な坂元・酒谷エリアなど、周辺の地域での体験・食プログラムを構築していました。それにより、日南市周辺を観光客が回遊することで、武家文化と南九州の伝統食と産業を堪能してもらうまちづくりを以前から計画しており、今回のプロジェクトもその取り組みの一環でした。

しかし、プロポーザル後、昨今のコロナウイルス蔓延によりこのプロジェクトは残念ながら延期されています。2021年秋から具体的な設計を開始し、2022年夏頃のオープンを目指す予定です。

今後の展望

日南市や九州での取り組みはまだ始まったばかりです。飫肥市内の回遊、故郷の奄美群島でのホッピング実現などを目指している山下ですが、歴史的に見て縁の深い九州・平戸から奄美、沖縄、そして台湾までの連携を含めるような取り組みを行っていけたらと考えています。

コロナ禍においては困難なことも多いですが、志の高い方々や地域と繋がって、各地域の魅力を最大限引き出し、日本の集落に活力を与えていくことでしょう。