Small House /狭小住宅

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【木造の取り組み】

木造は日本古来から培われてきた構法です。高温多湿の気候の中、生育の早い樹木は、身近にある有力な素材でした。主に垂直の柱と水平の梁で構成され、空いた部分には障子や板戸をいれるのが、古来から続く日本の木造建築でした。

山下は伝統的な木造にもリスペクトを払いつつ、150戸以上の木造建築を作るなかで、木造の魅力として「面」や「小さなユニット」という新しい視点を持ち込むことで、木造でありながら伝統的な木造ではない、伝統7割:新規性3割の法則(饅頭屋理論)で、新たに息吹を吹き込むチャレンジを行ってきました。

面=構造であり熱環境装置(断熱材)であり、仕上げ材として湿気や空気を出し入れすることで人間の体にも優しい事もあり、面構造に着目していきました。

 

7.Twisted ring / ねじり合わせられたリング

ref-ring:2005

この敷地の周辺は緑で囲まれているように見えますが、隣地建物との距離も近く、郊外でありながら、視線をいかにコントロールするかが重要なポイントです。(旗竿地でもある)クライアントからの要望は「機能性や面積の確保よりも面白い空間であることが一番」という事でした。

「反射」「素材」「抽象性」「知覚」

木造による新しい試みに挑戦する事にしました。私たちが考えたのは「木」という素材を抽象的な面として扱うことで事でした。それも無機質な面ではなく、視覚や触覚、嗅覚といった知覚を喚起させるような、多様性を内包させたかったのです。様々な機能やイメージを新しい生活スタイルに活かしたいと考えました。

面=構造であり熱環境装置(断熱材)であり、仕上げ材として湿気や空気を出し入れすることで人間の体にも優しい点や、木造でありながら、柱と梁による構成ではなく、面で構成することを考えつき、木パネルでできた2つのリング状の空間を組み合わせ、さらにヒネリを加える事ですべての壁が斜めになりました。この構成によって、様々な方向へ広がる空間の多様性が生まれ、3次元的で豊かな生活空間が生まれました。さらに視線が乱反射することにより、垂直・水平を基本とする人間の空間認知特性との間にズレが生じ、ある種の不協和音が起こります。しかし、木という素材にはその違和感を低減させる独特の質感があります。木パネルは構造材でもあり、さらに断熱・調湿の機能を持つため、ムダな仕上げはせず、木肌をそのまま活かした内装仕上げになっています。

木肌の触感や香りといった視覚だけでなく五感で感じられる住空間を持った住宅を実現することができました。

 

 

 

8.Unit construction method for structure, insulation, and function / 構造、断熱、機能のユニット工法

Layers:2005

敷地は東京都の住宅密集地、狭い道路の突き当りに位置する67㎡の狭小地です。敷地の北側には電車も通っている為、騒音の問題もありました。クライアントの家族構成は、両親と若夫婦、子供二人の6名でした。地下に両親の居住スペース、1階に若夫婦の寝室と子供室、2階にリビング、その上のロフトが家族共有の収納スペースという2世帯住宅を計画しました。屋外階段がこの住宅唯一の上下の動作であるため、雨の日には傘が必要があります。

 

音と温熱環境に対応する多重レイヤー

ここでのコンセプトは電車の騒音を防ぎつつ広い空間を確保すること。さらに、その外壁に空気層を設け、夏は自然の風を通し、冬は暖房による温かい空気の通り道を確保しようと試みました。それと同時にツーバイ材によるパネル化を工場で行い、工期短縮、工事費削減も目指しました。

パネルを構成するのは、網入りガラス、鋼板、強化高圧木毛セメント板、断熱材、プラスターボード、FRPといった素材です。垂直荷重は2×6材、2×12材の柱によって支え、柱同士つなぎ材としてパネルを使用しています。耐力壁としてでなく、棚としても利用するパネルには強化高圧木毛セメント板を背板として用いました。ここでは、薄いレイヤーを重ねることで、「構造+収納+温熱環境」を確保する多機能な外壁を作る事ができました。

 

 

 

 

【今後の展開】

Development of polyhedral architecture and urban development 

/ 多面体建築とまちづくりへの展開

「チカニウマルコウブツ」と名付けた建築は、狭小住宅に対する取り組みの集大成とも言え、山下及びアトリエ・天工人の取り組みを代表する建築物となりました。多面体による建築的解法は、様々な構法と組み合わせつつ、その後も熟成を重ね、R・トルソ・C、伝泊 The Beachfront MIJORA等の建築に受け継がれています。地上に作ったピロティは、まちの角地に対して広場を出現させる結果となり、建物が密集するまちのなかで、都市スケールの広がりを生み出すことになりました。また、見捨てられている狭小地の価値を反転することで、都市の活力再生=持続可能性につながります。このことから、都市またはまちに対して取り組みたいという思いとまちづくりへの視点が生まれ、その後の「美と健康のまちづくり」などの取り組みに繋がっています。

また、本建築は、造形的な美しさを含め海外からの評価が高く、世界の建築の教科書への掲載、海外からの受賞も多くいただきました。いまだにこの建築を見て、アトリエ・天工人で働きたいというスタッフが絶えないのも嬉しいことです。

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