Glass Block /ガラスブロック

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Social Background / 社会背景

山下は、20世紀がコンクリートや鉄やガラスという素材により世の中の成り立ちや景観に大きな影響を与えたことや、その変わる様に興味を持っています。素材や構造が世の中に大きく影響することを自身でも示してみたいと、常々思い続けてきました。
中でも、「メーソンリー:組積造」という構造に強く惹かれてきました。その理由は、下記の3点に集約できます。

1.西洋建築の原点であり、建築の歴史の中で古代から長い間使われてきた構造方式であること。
2.素材と構造と仕上げが一体であり、ひとつの物質がすべての表現になっていること。
3.一つ一つは小さな存在ですが、寄り集まることで建築全体を構成できること。

また、弱くもろいものが、使われ方・組み合わされ方によって力を発揮するという点で、ガラスにも着目してきました。板ガラスそのものは厚さが薄く、構造体を構成することが難しい素材ですが、ガラスブロックであれば、厚みがあり、構造になりえます。その中に空気を含むことで断熱効果をうみ、熱環境装置にもなります。

歴史と対峙したい、永い建築の歴史の中に印を刻みたいという想いと、光を透過しつつ熱環境装置として構造体にもなりえることから、「ガラスブロックの組積造」を実現した取組を紹介します。

1.The weak join hands to demonstrate their strength/ 弱い者同士が手を組んで力を発揮する

「クリスタルブリック」(2004年竣工)

煌めく構造体

東京都文京区に立つこの住宅は、親夫婦と若夫婦および子供2人の、2世帯のための住まいです。クライアントのご要望としては、 1階を親夫婦、2・3階を若夫婦たちの住まいとし、それぞれの居住空間は明るいこと、そしてクライアントが趣味で収集されている鉱物のような「煌き:キラメキ」のある住まいが欲しいとのご要望でした。クライアントの「キラメキ」というイメージから、ガラスブロックに着目しました。

建築家、構造家、ガラスブロックのメーカー、大学の4者で実験を行い、ガラスブロックを外壁の構造体として実現することを目標に、初期の段階から検討を進めていきました。
これまでガラスブロックを構造体に使う事例は皆無で、メーカー自体も二の足を踏んでいましたが、分からなければ実験で試してデータを取る、それが山下の流儀です。何度も実験を繰り返すうちに、構造で使えるための圧縮強度が判明していきます。

小さな緩衝材

構造体として、ガラスブロック壁の目地の中にスチールフラットバーの格子を仕込み、ガラスブロックをその格子の中に組み込んでいく方法を編み出しました。完成するとスチールフラットバーは見えなくなり、ガラスブロックだけでできているように見えます。透明・半透明のガラスブロックを場所によって使い分けることで、柔らかな膨らみのある光が煌く美しい生活空間を実現します。

スチール・フラットバーと呼ばれる薄い鉄の板:19×65ミリを400ミリ×600ミリの格子状に組みます。スチールフラットバーはそれだけだと薄く弱い構造です。その弱い格子の一枡の間に190×190×95のガラスブロックを6個入れ込むことで、このガラスブロックが水平力を負担しつつ、スチールのフラットバーが安定して圧縮力を担うことができるようになるのです。

このシステム実現のポイントは、実は、ガラスブロックとスチールの間の小さな緩衝材でした。
ガラスブロックとスティールが接触しないための緩衝材には、力の伝達を行えるだけの堅さとぶつかって壊れないための柔らかさが求められます。様々な材料をしらみつぶしに試していった結果、導き出された答えは、特殊なものではなく、1ミリのクロロプレンゴムと2ミリのアクリル板の組み合わせでした。
スチールのフラットバーとガラスブロック、そしてクロロプレンゴムとアクリル板による緩衝材。それぞれは皆、単体では弱くて脆いものですが、これらの組み合わせによって、光を透過し、フレームが見えない、ガラスブロックだけの外壁として特許を取得することができました。

ガラスブロックの空間表現

完成したガラスブロックの外観は、夜にはぼんぼりのように全体が柔らかい発光体のように見えます。内部では、透明と半透明のガラスブロックを場所によって使い分けることで、柔らかな「ふくらみ」のある光が煌めく生活空間を実現できました。ガラスブロックは鉄骨の格子状の天井を支えており、重力や物質に反するかのような、意識が揺さぶられる空間となりました。

ガラスブロックを使った名作建築、ピエール・シャローの「ガラスの家」やレンゾ・ピアノの「メゾン・エルメス」がありますが、それらとは異なる方法で、ガラスブロック建築の一翼を担う建築が実現できたと自負しています。

 

 

 

2.Steel + glass block + ALC: three-way series/ スチール+ガラスブロック+ALC:三つ巴のシリーズ

「Twin-Bricks(2008年竣工)」「クリスタルブリックⅡ(2011年竣工)」

 

透明・半透明・不透明を均質に扱う

「クリスタルブリック」でガラスブロックを用いた構造に先鞭をつけたなか、透明と半透明の2要素で建築を構成しました。ここではさらに、不透明な要素も同等に扱えないかと考えたプロジェクトを紹介します。2008年竣工の「Twin-Bricks」と2011年竣工「クリスタルブリックⅡ」です。

いずれの建築も、不透明な要素にALC(Autoclaved Lightweight Concrete)を用いることになりました。ALCを選んだのは、永年の経験から来る直感でした。
大学とメーカーの協力の元、実験を行うなかで、ガラスブロックとALCがほぼ同等の強度を持つこと、ALCには靭性(粘り強さ)があることが分かりました。異素材でありながら同じ強度を持つということは、構造全体として力が偏らず安定した構造となります。

「光と外部風景を取り入れる面(透明のガラスブロック)」「外部から何も取り入れない面(ALCパネル)」は互換可能となり、自由に選択できる、いわば「フレキシブルな構造体」です。ガラスブロックの一部をALCパネルで代替えすることで、コスト削減も実現しました。

 

 

 

3.Cost reduction by integrating steel construction + glass block panel construction1

 / 鉄骨造+ガラスブロックパネル構法を融合しコスト削減 

「白いテントウ虫」(2008年竣工)

 

ガラスブロックによる光のゆらめき

ガラスブロックに関する挑戦のバリエーションとして、日本電子硝子から打診のあった既製品のガラスブロックユニットパネルを用いた構法を紹介します。
外壁タイルとガラスブロックを一体的に連続して見せるため、2つの素材を95mmの厚みに揃えています。多面体への対応を考慮しパネルの接合部は角度を自由に変えられるように、40mmの薄さ、見付125mmの特殊な鉄骨パネルを工場制作して使用しています。外壁タイルはガラスブロックと合わせた145×145mmのタイルを特注しガラスブロックとタイルの目地を通しました。

このような工夫から、壁と開口部の境界が曖昧になり、昼間はガラスブロックとタイルが同じテクスチャーに見え、夜になると白いテントウ虫のようにガラスブロックが浮かび上がる姿が現れました。

「リセールバリュー」をキーワードに

設計の初期段階でクライアントと決めたキーワードは「リセールバリュー」でした。2006年をピークに日本の人口が減少している事、いずれ再開発があるかもしれないという敷地の場所性を視野に入れ、5~10年後に転売する可能性を踏まえ、住宅以外の用途にも変更可能としてほしいという要望でした。
これによりタイルはリセールバリューを与件として、経年変化を少なくしたいという点から、INAXの協力のもと、マイクロガード加工を施した145mm角タイルを特注しました。

 

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