Small House /狭小住宅

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Social Background / 社会背景

近代1900年代初頭、工業化によって都市に人が急速に集まり、大量の住宅が必要とされました。折しも産業革命に伴った技術開発によって、ガラス・鉄鋼を用いた乾式工法、耐火性の高い鉄鋼とセメントを使った鉄筋コンクリート構造が、近代建築の初期に開発され、以降、多様な建築を創り出してきました。

都市と建築家

日本では、敷地を個人が所有し、一戸建ての住宅を建てたいという要望がとても強くあります。この原因には諸説あり、かつてあった、農地を根本とする地主制度や、高度成長期に設定された「庭付き一戸建て」という幻想(戸建て住宅を人生の目標とし、長期ローンを組ませることで日本全体の経済復興につなげるという仕組み)によるところも大きいと思われます。江戸時代に作られた共同住宅「長屋」が木造であったため、隣との防音性に欠けていたという点も、共同住宅への忌避につながったかもしれません。または、他者との間に「和をもって尊しとなす」、すなわち、他者への配慮を重視する国民性ゆえ、逆に住む場所くらいは他者の影響を受けにくい建て方を求めたという説もあります。

いずれにしても、限られたエリアに多くの人々が密集して住まうという時代の潮流の中、狭い敷地の中で一個の独立した建築=住宅をつくることが、日本の都市住宅には必須の要件であり、建築家のメインテーマともなっていきました。

私達も、都市の狭小地で多くの建築を手掛けてきており、様々な素材・構造・構法の試みを蓄積してきました。「限られた敷地の中で豊かに暮らす方法」を提案することで、一見見捨てられたかのような狭小地に新たな価値を付加すること、それが都市全体の価値を高めることに繋がります。

このSTORYでは構造種類別に、狭く見捨てられがちな都市の中の狭小地で、豊かな空間を生み出してきた、多様な工夫と数々のチャレンジを紹介します。

 

 

[RC Structural Initiatives]/【RC構造の取組】

鉄筋コンクリート造は、セメントと砂利などの骨材を混ぜたコンクリートが圧縮力を担い、その中に引張と曲げを担う鉄筋を組み込んだ複合構造です。19世紀末期にドイツで開発されて以降、耐震性、耐久性、防音性、耐火性という性能、型枠にコンクリートを流し込めばできる造形性などから、近現代にいたるまで様々な構造物に使われてきました。

1.Transforming the city’s strict legal restrictions into a rich space through polyhedral architecture

 / 都市の厳しい法規的制約を、多面体建築により豊かな空間に転化

チカニウマルコウブツ:2006

都市の厳しい条件

この住宅の敷地は東京都にある住宅密集地に位置し、2つの道路に挟まれた小さな角地です。2方向からの道路斜線と北側斜線という法的にも厳しい条件がある敷地でした。クライアントの3つの要望は、「面白い住宅であること」、「最大ボリュームを確保すること」、そして「屋根つきの駐車場を確保すること」でした。

「鉱物」と「反射」

敷地の与件、クライアントからの要望に対して「地下に埋まる鉱物」というコンセプトイメージを抱き、「鉱物」と「反射」をキーワードを指針する事で、引き算をデザインのポジティブなツールとして活用して設計を進めることとなりました。

『鉱物』:鉱物のカットとはそのものの美しさを最大限に引き出す技術で、カットによって価値がより高まります。また、カットによって生まれる多面体は透明・半透明・不透明の3つの要素となり、視線の反射を促します。多角形のそれぞれの面は、壁・床・天井・開口部として置き換えられ、建築の空間構成が出来上がりました。

『反射』:視覚は、空間を制御する幾何学形状(透明・半透明・不透明の3つの要素を持つファセット)を認識する上で重要な要素であり、それらが内部空間内で三次元的に絡み合うことで、視覚的な反射が引き起こされます。視線による反射を起こすことで空間の広がりを認知します。その結果、空間の制限からの逸脱が生じ、認知される空間が広がります。

 

光と視線

内外の多面体の面では、光が反射し、光の角度と人が空間内で移動することにより、面の認知のされ方が変化し、空間に多様性が生まれます。ステンレス鏡面による反射、白く塗られた不透明な面、外部にぬける透明の開口部。これら3種の面を駆使し、物理的には狭い空間でありながら、視線が止まることなく、奥へ奥へ誘導され、抜けのある空間を感じ取ることができます。

結果、与条件をクリアし、最大限の光を取り込みながら、最大限の住居スペースを確保するために、最大限のボリュームを様々な角度から削り取り、宝石のような多角形の建築になりました。

>「チカニウマルコウブツ」のページはこちら

 

 

 

 

2.Floating space with gravity reversed / 重力を反転した浮遊する空間

Magritte’s:2005

この住宅の敷地は東京の真ん中にある45.61㎡の小さな敷地にあります。前面道路の幅員により建設機械のサイズが制限されました。クライアントは若いご夫婦で、「家のすべての部分(壁、床、テーブルなどを含めた)をコンクリートで創りたい」というシンプルな要望でした。

ピレネーの城

建築をつくる事は重力との戦いです。シュールレアリズムの画家、ルネ・マグリットの代表作のひとつである「ピレネーの城」の、宙空に浮かぶ重量感に満ちた巨大な岩と、その上に載る小さな城にインスパイア受け、重力から逃れる巨大なコンクリートブロック建築の構想を始めました。

ポストテンション方式によるPCコンクリート構法により反重力の建築をつく

現場打ちプレストレストコンクリート構法を用いて、重量感のあるコンクリートのボリューム(塊)を、下部の構造から切り離して支持させています。本来「重い」構造であるRC造でありながら、シュールレアリズムの世界のような「浮遊感」のある空間を創り出したのです。

ポストテンション方式によるPCコンクリート構法:コンクリートの圧縮強度を利用して、コンクリート打設しコンクリートが一定の強度に達した後から鉄筋(テンション)を引っ張りその状態を固定することで予め応力を導入する工法です。特徴として大きなスパンや薄いスラブなど、従来のRC(鉄筋コンクリート)構造では難しかった形状の構造物も設計・施工が可能となり、今回のように構造的な<接点>が少なくする事も可能となり、1,2階のボックスと3階ロフトを地下のボリュームと縁を切ることで、まるで宙に浮いているように見えます。

都市の密集地に光と風が行き渡る

各階の空間は相互にずらしながら積み上げられ、各所に光と風が抜ける「隙間」を創り出しました。都市の中で貴重な光と風が、都心の狭小住宅地において、地下深い空間の底までも行き渡る住宅を実現したのです。

重力からの逸脱

この地球上で建築をつくるという事は、常に重力との戦いであります。重力から逃れるためには、飛行機のエンジンのように重力に反するエネルギーを利用するか、風船のように酸素よりも軽いものによって浮遊するか、その2つの方向性しかありません。しかし、PCによって重力からの逸脱を図ることができます。この物件では、われわれが日常生活の中で常識だと捉えているものを再考させるような、新たな建築空間を見出すことに成功したと思っています。

 

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