山下保博「コストさえも建築の一部だということ」

私は、project 1000という 1000万円台のコストにこだわった建築を20年間作ってきた。なぜなら、形態以上に社会に関係している、クライアントに関係している、クライアントが興味のあることがコストだからだ。

この建築(ボルトン工業新社屋)は、久々にコストを重点に置きながら建築を作った。東京のコンクリートが坪当り150万円と言われる異常な時代に半分ぐらいのコストで作ることは意味のあることだと思ったからだ。クライアントもお金はあまり無いが、意識の高さはすごく良く、我々の創作活動に常に好意的だったから。ここでの問題は地盤が悪く杭を打たなければ成立しないことがわかったので、軽い建築が望ましいことも大きな条件の一つだった。ここで大いに挑戦ができると思ったのは、クライアントの質の高さといつものスペシャルチームを組めたことだ。構造家の佐藤淳、施工のホームビルダーの松岡さんと20年来の職人たち。形をあらかた決めていく中で、木造、鉄骨造、コンクリート造を当然比較していった。私と松岡さんは80棟以上の建築を共に作っている同志なので、コスト感覚はすごく近い。スタッフが驚いたことに、我々お互いが別々に出した建設コストの20項目のそれぞれがほとんどずれていなかったことだ。その試算表を元に形態の見直し、材料の選択、ディテールの開発を職人と打ち合わせすることで決めていった。松岡さんと29年以上作り上げたディテールと新しいディテールを検証しながら。その行為は自分で言うのもおかしいが神々しいような行為だった。ウチの副社長やスタッフも私と佐藤さんと松岡さんの3人で打ち合わせしているところを見て、映画のような物語のような打ち合わせだったと興奮して話したことが数度あった。このことこそ、社会とコミットした建築の姿なのかなぁという思いでやっていたことを覚えている。

その結果、コストは通常の半分ぐらいだが思った通りの建築が出現した。佐藤さんは、建築の重さをギリギリまで絞り込んだ計算をしてくれ、松岡さんは職人と共に検証を怠ることなく実践してくれた。私は、建築の持つダイナミズムを表現する為に100個近い模型を製作し、新しいディテールを考えていった。そして、コストは安いがこの建築に合う材料を選択していった。

出来上がって半年が過ぎたが、一番この建築を愛しているのはクライアントとこの会社のスタッフのようだ。出来上がってからいくつかの修正やご自身たちでの自主工事もあったが、すごくマッチした工事を行ってくれた。

「クライアントの質が建築の半分を創る」これが300棟近くを創ってきた私の持論だ。

(初出:山下保博 facebook 20181215 投稿、写真:傍島利浩)